色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 【最終章】
3rd Impact
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最終章のあれこれ  3rd Impact
  時間に余裕のある方は読んでください。。
  「巡礼の旅」について
     「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」原作の読後に抱いた率直な感想は、書かれなかった「つくると沙羅が会う3日後」にどのような話しがされ、二人の関係はどう決着するのか、に尽きました。村上さんがどのような結末を見越していたのかは知る由もありませんが、だったら自分でポイント(骨子)を整理しつくるに代わって自分なりの終着駅を作ろうと考えました。
 「巡礼の年」では結末が不明瞭だと感じて自分なりに推測して最終章を書き始めてからしばらくして、インターネット上で多くの独自の分析が公開されていることをようやく知りました。すると、何人もの方が私とほとんど同じポイントを指摘しておいででした。私は自分だけが気づいた秘密があばかれたような残念な気持ちと、自分の考えていることなど誰でもお見通しであり、かえって私の推測が大外れしていないんじゃないかという安心感を同時に持ちました。
 私は熱狂的という程ではないにしても村上さんの作品のファンです。ただし、私には村上作品の読み方というものがあって、それは発表されてから5~6年経たないと読まない、ということです。ですから「巡礼の年」はつい最近初めて読みました。その理由はさておき、村上さんの現時点での長編14作のうち、「巡礼の年」を含めて13作は読んでいます。つまり、「騎士団長殺し」はまだ読んでいません。 いずれの作品であっても原作を読むまでの間はさまざまな書評はもちろん、作品に対するいかなる情報も避けるようにしています。その努力には情報化、インターネットの社会においてけっこう辛い部分がありました。
  「巡礼の年」の描かれていない最終章の考察
     ストーリーの結末は沙羅がつくるを選んで沙羅と新たな出発をするとか、沙羅が年上のボーイフレンドへの断ち切れない気持ちを率直に伝えてつくるは生きるしかばねにふたたび戻る、が考えられますが、そう簡単には済みません。沙羅は気持ちはつくるに大きく傾きながらもどちらも選ばない(つくるを選ぶ資格がない)という第3の選択を採ると思います。
 誰もがそう思うように最終局面のポイントは、3日後の「沙羅の告白」とは何か、いやもともとの疑問である「木元沙羅は何者か」にかかっています。つくるはもとより、アオもアカもエリもそれぞれに独自の立場や考えを抱え込んでいます。ユズでさえも。では沙羅は「何を抱え込んでいる」のでしょうか。
  4回目の巡礼の旅とは?
      原作でつくるはアオ、アカ、クロの順に会いにいきます。これが作品タイトルにある巡礼の旅だということに疑いありません。それぞれの元を訪れて各人の立場(事情)や心情に触れ、つくるはすべてに納得いかなくても事情は理解することができました。
 でも、かつての仲間はもう一人いたはずです。シロへの巡礼はないのでしょうか? このことを疑問に思われた方もいらっしゃると思います。シロは亡くなっているからという理由で巡礼は無理なのでしょうか。いいえ、約束の3日後に沙羅を通じて柚木への巡礼がおこなわれ、その後に沙羅自身への巡礼が実行されます。シロが2人居る訳ですからシロへの巡礼は2人に対するセットとして執り行われるというのが私のストーリーです。
  喪失と再生に向かって
     最終章は3日後の沙羅との話し合いから始まります。そこでは、1.原作で明かされなかった点を拾って自分なりの答えをだすこと、2.つくるが沙羅を喪失したあとに再生の余韻をもって終わることを課題として、メタファーはできるだけ少なくすること(私は村上さんの真似をしている訳ではないので)、冗長にならないこと、そして過酷な歴史(事実)に臨むつくるには沙羅に対する愛情とユズへの慈しみ、エリへの感謝をいつも携えるように心がけました。
  3日後の沙羅の告白
     私にとって村上さんの作品の中でもっとも印象的な部分のひとつが「ねじまき鳥クロニクル」におけるクミコの独白です。同じように沙羅に対して過去の事情や歴史(事実)、現在まで引きずっている問題をやはり長い独白にして語ってもらいたいと願い、意識的に組み込みました。 最終章ではちゃんとできたでしょうか。
  青い服と木元沙羅
     村上さんの作品ではいつも、女性が着る服を印象的に描いています。
そして、重要な立場にある女性はおおむね青色のワンピースを着ています。よって最終章では沙羅に青い服を着せたかったのですが青はスカートだけにとどめました。
 というのは、青いワンピースを着た女性はきまって消失する(二度と会えなくなる)からです。 原作ではエリが青色のワンピースを着ています。ですからフィンランドに渡ったエリとは今回限りで再び会うことのない今生の別れを表していたのだと思っています。
 私のシナリオではつくるは沙羅を探す最後の巡礼に出向きます。そこで行く着く先は破滅ではなく再生に結びついて欲しいと願いました。ですから、いったんはつくるの前から消え去る沙羅には半分だけ青い服を着てもらったのです。
 代わりに上半身には二人のシロをモチーフにした白いセーターと黄色いペンダントを身につけてもらいました。
 最終章もこれまでの村上作品に習って女性の服に意味を持たせたという訳です。
  著作権への対応
     「最終章」はけっして村上さんの権利を脅かすものであってはなりません。著作権者である村上さんご本人、もしくは代行する資格を有する出版社の方が「最終章」が原作の権利を侵害していると判断された場合はその旨をお知らせください。直接ご意見をお聞きいたします。
  木元沙羅のモデル
     結び前に私が沙羅と柚木の姉妹のモデルとなったHさんへの感謝のことばを記しておきます。
最終章に取り掛かるにあたり私なりに骨子(ストーリーの概要)はしっかりと組んでいましたが実際に書き始めると文章に詰まってしまう場面が何度もありました。
 私はつくると沙羅がうまくいくことを予感させる結末を目指していました。その、うまくいくとは具体的に表すと何だろうと考えたとき、近い将来につくるに対して沙羅がかつて表参道で別の男性に見せたようなあけっ開げの笑顔を見せることではないかと思いました。
 職場の後輩となるHさんは笑顔がとびきり素敵で(実際によく笑う)、やさしい性格なうえに高身長のなかなかの美人さんです。おまけに白いセーターと青色のスカート、アップにしたヘアスタイルがとてもよく似合います。実在のHさんを最終章の主人公ともいえる沙羅と柚木に見立てることで2人のイメージを膨らませながら身近に感じつつ物語の進展をずいぶん助けていただきました。
 つくるが最終的にはHさんのような笑顔の沙羅を手に入れられるよう願っています
  終わりに
     「最終章 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んでいただきありがとうございました。
 私はこのような結末に至りましたが皆さんはそれぞれ独自の最終章を描いてください。
 ありがとうございました。
いただいた質問について
     いただいた質問について簡単にお答えします。
  作者ネームの古泉水規は本名ですか
     いいえ。Koizumi Mizuki(古泉水規)は私が別に長編小説を書いているときに使っているネームをそのまま用いています。
 私はモデルさんとして活躍されていた古泉きぬえさんと安井水規さんを敬愛しており、それぞれから姓と名をいただきました。
 古泉さんは絵に描いた美人さんで、いつもグラビアからはみ出るような明るく快活な表情が印象的な方です。大手化粧品メーカーのキャンペーンガールもされていました。今は心温まるプロガーとして活躍しておられます。
 安井さんはモデルとしては不思議な方でした。いちばん似合う服は木綿のひざ丈ワンピースというように、華やかなところがありません。しかし、とてもキュートで愛らしく、ファッション誌の表紙を幾度となく飾るほどの人気がありました。残念なことに彼女は難病のため若くしてお亡くなりになりました。
  シュタインベルガーに意味があるのですか
     よくお気づきいただきました。
 シュタインベルガーはドイツワインの名産地・ラインガウにある古くからの醸造所です。最終章では沙羅がカビネット(ワインのランク)を選んでいます。飲みやすさとコクを備えたよいワインです。
 シュタインベルガー・カビネットには物語があります。このワインをこよなく愛した元ドイツ空軍少佐、鋼鉄の撃墜王フーバー・キッペンベルグは愛機クフィールに乗って中東で四散しました。フーバーの戦死の報を知らない彼の親友カーライル・ベンディッツはフーバーを懐かしみつつパリでこの酒を飲んだあと、故郷のヒースロー空港で刺されてあえなく没したのです。また、偶然にもベンディッツと同じ店で亡きフバーを偲ぼうとシュタインベルガーを注文した風間真(シン)はその後に自己喪失しています。
 ですから、悪霊との関係を断ち切る覚悟を実現しようとする沙羅は自身の消失を厭(いと)わない強い意思を持っいるという意味を込めて、喪失(死を含めた)を暗示するこの酒を選びました。
 ワインといえば、つくるが名古屋の4人にシャットアウトされた経緯を初めて語った恵比寿のバーで沙羅が頼んだ、サンフランシスコのすぐ北に位置するナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニオンは成熟したものだとミントのフレーバーがすることで知られており、村上さんのこだわりがわかります。
  Hさんはどんな方ですか、何歳なのでしょう。
     私が最終章を書くにあたり沙羅と柚木のモデルになっていただいた、普段からとびきりの笑顔を持つHさんについて、沙羅に深い興味を持つ方にはとても気になることはわかります。Hさんは沙羅より若いです。そしてとても頭がよい女性です。頭がよいとは、単に勉強ができるだけでなく、自立心を持ちながらも周り人の痛みを察することができるやさしい心根を持ち合わせている、ということです。イメージはシアーシャ・ローナンでしょうか。申し訳ありませんが、これ以上情報は差し上げられません。
 沙羅が表参道で年上のボーイフレンドに見せた笑顔がHさんみたいに素敵なものだったら、私ならそれだけで沙羅をあきらめてしまいますね。

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