その後・続編・色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 【最終章】3日後その後・続編・色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 【最終章】

その後・続編・色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 【最終章】
木元沙羅は何者か、真犯人は誰、推理小説、元沙羅のの正体
村上春樹さんの長編小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は未解決の課題を多く残したまま物語を終えています。そこで、原作にちりばめられた手がかりを頼りに未解決の結末を描いたオリジナルの最終章を制作しました。多崎つくるのその後に興味をお持ちいただいた方に配信しています。


その後   最終章   その後・最終章
村上春樹さんの「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の結末を補完する最終章、その後を公開しています。   最終章は手軽に読めますが、ごく簡単な「友だち申請」が必要です。最終章を読んでみたい方はこちらから。   最終章の制作にいたった経緯を説明しています。時間がある方はこちらへもどうぞ。

 Koizumiです。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(原作、または単に「巡礼の年」)で未解決になった結末を補完するための最終章を書いてみました。興味がある方は気軽に読んでみてください。真相真実、推理、解説、感想と考察
最終章とは
   盛り上がりを見せた原作でしたが、終わり方についていささか物足りないものを感じたのは私だけではないように思います。村上さんとしては私たちに結末を描く必要がないと考えられたようですが、読後にはどこか消化不良のようなもやもや感を持ちました。
 村上さんはつくるにどのような物語の締めくくりを課したのかは読者が想像するしかありません。では、私だったらどのような結末を予想し、期待したのだろうと考えてみたとき、自らオリジナルの最終章を書いてみることにしました。
  最終章の立場
     最終章を村上さんの作品の単純な続きだと思わないでください。
 私は村上さんに敬意を持っており、彼の作品の純然たる延長だとみなされますと、村上さんにとても失礼なことです。あくまで村上さんの原作のストーリーを私なりに補完するオリジナルであると理解してください。よって、最終章にはストーリーのつじつまを合わせを優先させるためにかえって強引な展開を含んでいたり、文章表現に技術的な稚拙さが多々あろうかと存じますが、村上さんの原作や種々の作品との比較した読み方はくれぐれもご容赦いただきますようお願いします。元沙羅の告白と結果
  最終章を読むには
    ごく簡単な条件付きで読んでいただくことができます。
ボリュームは文庫本に換算すると120ページ分となります。
最終章を読むにはこちら
  最終章の主な内容
    最終章の骨子(ポイント)です。
    【原作から知りえた内容に基づくこと】
  • 約束した水曜の夜、つくるは沙羅と会った。
  • フィンランドでのエリの様子について沙羅に語った。
  • つくるが伝えたエリの娘の名前を聞いて沙羅は動揺した
  • 沙羅は「正直になる」という、つくるとの約束を守った。
  • 沙羅はつくるだけでなく「誰も選ぶ資格はない」と語った。
  • 沙羅は自分の歴史(事実)について独白した。
  • 沙羅と手をつないでいたのは恋人であり、沙羅の父親だった。
  • 沙羅と柚木(シロ)はともにミントが好きな姉妹だった。
  • 柚木をレイプし、殺害したのは父親であり、父親こそ根本的な悪だった。
  • 沙羅には過去に結婚経験があった。
  • エリは、つくるのガールフレンドの沙羅がユズの姉であることを気づきながら、つくるには明かさないでいた。
  • 沙羅は父親と断続的に親密に交際しており、今も続いている。
  • 父親との関係を断ちたいと沙羅は強く願ってきた。
  • 沙羅は父親との関係を解消するために、つくるから自分も悪であるとの誹(そし)りや詰(なじ)りをを受け、そのことで決着へ向かう覚悟を得たいと考えて近づいた。
  • 父親を巡る複雑な感情を沙羅はずっと持ち続けてきた。

  • 【オリジナルとして組み入れた内容】
  • 沙羅はユズの出来事と自分の体験との深い関係性を説いた。
  • 沙羅はユズより先に父親からレイプされていた。
  • 沙羅はつくるが好きだが、つくるとの恋愛は成就しないと考えている。
  • それを知っても、つくるは沙羅を手に入れたいと思った。
  • 沙羅は「事情」を告白したあと、つくるに誘われてつくるの部屋へ行った。
  • 翌朝、沙羅の姿は消えていた。
  • 沙羅はつくるの部屋に思い出のペンダントを置いていった。
  • その日は特別であり、沙羅が危険な覚悟を実行する日だった。
  • つくるは強い喪失感を感じた。
  • 沙羅の計画を阻止するために協力を求めたアオとアカはつくるの頼みを聞き入れてくれた。
  • つくるは最後となる4度目の巡礼に自らの意思で臨もうとする。
  • つくるは沙羅を追いかけるかたちで、再生を期して名古屋へ向かった。
最終章の部分(抜粋)
  【最終章の出だし 沙羅と会うために】
     沙羅と約束した水曜日の夜、仕事を終えたつくるは外苑前駅の階段を登って通りに出た。この三日間はつくるにとっていつになく長く感じたが、それは沙羅にとっても同じことだったかもしれない、と思った。限られた時間の中で沙羅は結論を導いたに違いない。つくるに明言することで自分に課した、正直になるという約束はきっと守られるはずだ。沙羅はまちがいなく選択という名の決心を携えてやってくる。それがつくるにとって好ましい答えでなかったするなら、二人の話し合いがすんでしまうと、沙羅と逢うのは今晩が最後になるだろう。そのときどんな顔をして自分の部屋に戻って行くのだろうか、つくるは想像してみた。再び真っ暗な夜の海に放り出されてしまい沙羅という船が遠ざかっていく様子を哀しみにあふれたまなざしで見送ることになるかもしれない。最初は手や足を少しばたつかせているが、やがて泳ぎ出す気力が失われる今度こそ底がない深海に沈んでしまうのではないだろうか。
 「いや、悪いことを考えるのは止そう」つくるは自分に言い聞かせるように心の中で声して言ってみた。沙羅に誰かつきあっている男の人がいるんじゃないかと聞いた晩の翌朝4時に、感情にまかせて電話ををかけたとき、彼女は「安心してゆっくり眠りなさい」と言って電話を切った。それは手をつないでいた男との関係を断ち切ってつくるを選ぶことをすでに決めていることを意味していると受け取って良いのではないか。それならつくるの心配は杞憂だったといっていい。しかし、自分の気持ちを率直に話すから、その場かぎりの嘘を並べたてたりしないから安心してということだったとしたら、つくるはまだ沙羅を手に入れたことにはならない。いずれにしてももう少しすればわかるだろう。今あらためてつくるがどんなに沙羅を求めているかを言い重ねたとしても彼女が用意した決断は揺らぐことはないだろう。
 つくるは本通りから少しはずれた店に入り店内をひととおり見渡してほっとした。メールで知らされていた店名はイタリア料理店だったものだから、わいわいとお酒を酌み交わす仕事帰りのサラリーマンやにこやかに顔をつきあわせる恋人たちで賑やかな店を想像していたが、テーブル数が少なく、おちついた雰囲気を醸していたことがつくるにとって深刻めいた会話をする場所として似合っていると思えた。沙羅はまだ到着しておらず、フロア係りに彼女の名前を伝えるといちばん奥の壁際の席に案内された。まずミネラルウォーターが注がれ、二、三口を飲む間に沙羅はやってきた。
 つくるの姿を見つけて軽く微笑んだ沙羅は腰掛けるとさっそくメニューを広げながら彼に尋ねた。「あの電話はあなただったんでしょう? 」
  【つくるがエリと会って話した内容を沙羅に説明している途中で】
    「ユズさんから本当に何があったかを聞き出すことはもう誰にもできない。」沙羅は続けた。「でも何かを糸口にしてユズさんの身に起きたことを知る方法があるとしたらあなたは恐れずに事実に対して真正面から立ち向かうことはできるかしら」
「言っていることが分からないな」
「多崎つくるくんはついこの前まで名古屋での一連の出来事について何ひとつ知らなかったのよね。それが、三人の友人を訪ねることで全容に近づいたと感じている」沙羅はいまさらながら判明していることを確認した。
「そのとおり」つくるは同意した。
「でも全てのことがすっかり解明された訳ではない」
「それも認める」
 【中略】
「悲しすぎる結果を招いた原因は空白のまま残っていて、その空白にはいまもって重要な疑問が含まれ、ますます重要度を高めている」
「ありがとう、君が言うのならそうかもしれない、と思えてくるよ。けれど、空白のパズルの完成をユズが望まないとするなら、ユズがいっそう苦しむかもしれないパズルだとするなら、永遠に知りえない部分として放棄したってかまわないんだ。たとえ事実を掴む行為であったとしてもね。」
「あなたはユズさんがとても好きだったのね」沙羅の言葉は穏やかだった。
「そういうところはあったかもしれない」
つくるは沙羅の言葉に同意しながらもどこかはぐらかした言い方で返事した。一瞬、つくるの心の中に、全裸のエリとともにつくるを愛撫し彼のうえにまたがって射精に導くユズの姿がよぎった。エリには申し訳ないが、夢で交わったユズをどこかで求めていたのだろう。エリには告白できなかったことだった。もちろん沙羅にもだ。
沙羅はデザートを、子供が公園で砂崩し遊びをするように端から少しづつスプーンを使って切り出しながら口へと運んだ。
「けれど思うんだ。16年間もの長い間、圧し固められて薄くなっていたとはいえ、溜った記憶の残骸は心の奥底の水門に堰きとめられていて、いささかなりとも流されることなく沈澱していたのは間違いないことだったし、それがアオを訪れてからはものすごいスピードで水が音を立てて流れ始めてこの勢いなら川底がいつか露呈するんじゃないかと」
「何か感じるものがあるのね」
「いや、まったく根拠がない僕の妄想としかいえない程度だけどね」
「それが現実になったら、浅くなった川面が澄んだ水で満たされて判明した事実はあなたを新たな絶望の淵に押しやるかもしれない。そのあとにやってくる苦痛とか、場合によっては怒りに支配されることがあったとしてあなたはかまわないの?」と沙羅は言った。
「うん。その時は二十歳の僕が何とか泳ぎ切ったと逆方向に進もうと思う。行きつく先にはユズと僕を入れた懐かしい五人組にあった安らぎのようなものが待っているような気がするんだ。もちろん、無傷で済むとは思えないけどね。ただ、怒りはほとんどないはずだよ」
「わからないわよ。誰にも先のことなんて見通せないもの。」
「いや、そこにはきっと怒りはないはずだよ。死ぬことばかり考えていた時でさえ憎しみとかいった外向きな感情はほんのいくらかしか湧かなかったから。だいたい、エリをはじめ3人が教えてくれた以上にユズに近づくには手詰まりに陥っていて、もう先には進むことができない状態だから川底が見えた時の心配をする必要はないんだ。僕は駅舎をつくるのが得意なだけで推理小説の主人公じゃないんだから、物語があるところまで来た瞬間に、頭の隅でピンと音が鳴ったような素晴らしい発想を得て一気に迷宮の謎の答えに辿りつくなんて不可能だよ」
つくるのの言葉を聞いて沙羅はそっと笑った。完璧に静かな笑い顔だった。

 しばらくの沈黙のあと、つくるは沙羅が喜ぶ話題を持ち出した。
「エリはね、君をとても好意的に受け止めてくれたよ」
「そう、どんな風にかしら」

  【沙羅が手をつないでいた男性との関係を告白したあと、つくるが衝撃的な事実に気付く】
      何てことだ。つくるの思考は止まった。こんなことが世の中にあっていいのだろうか。いや現実に目の前でなされた不可解な告白を受けて至極ざらざらした不気味さがつくるを支配した。
 つくるは気を落ちつけようと、ほんのちょっとしか口をつけていないグラスを握った。水滴で汗をかいたカクテルグラスを掴むと、即座に喉に流し込んだ、まだずい分あったバーボンの効いた液体を一気に、残らずに。この瞬間、つくるはかちんという音を聞いた。それは以前に銀座の喫茶店で沙羅が閉じたハンドバッグの音に似てとても大きな金属音が響いた。何人かいる店の客は音に気付かなかったのか、誰も振り向きはしない。つくるは自分の頭の中だけでかちんと鳴ったことにようやく気付いた。
 それからつくるは小高い丘の上に一人で立っていて大海原を見つめている自分を想像した。すでに記録的な津波がやってきて眼下の町を押し流していた。しかしつくるは崩れゆく町ではなく、はるか沖の方角を向いていた。そこにはより大きな、第二波となる白い波が背筋が凍るくらいの高さで押し寄せてくる様子が映った。最初の波で受けた以上の被害が容易に予見され、それは本当に何もかも打ち壊し、引き波ではすべてを連れ去っていくに違いない。残骸さえ残らないかもしれない。安全な場所に退避しているとつくるには言えない。波にさらわれないと誰に言えるだろうか。つくるはきっと起こるに違いない惨状におびえていた。周りを見渡しても逃げる場所なんてどこにもなかった。つくるは行きつく結末を茫然として受け入れるしかなかった。

「君はミントグリーンのワンピースが特別だと言った」
「そうよ。私には意味があると思っている」と沙羅は言った。
「そして、恵比寿のバーではモヒートを頼んだ」
「そうだったかもしれない」沙羅は思い出す素振りで小首を少し傾けていた。
「広尾の店ではおいしいと言ったレモンスフレに、さっき食事した店でもデザートにミントが載っていた。この場所で君が選んでくれたカクテルはミントジュレップだった」
二人してテーブルの上のグラスを見つめた。沙羅のロングカクテルはとうに空になっていた。
「君はミントが好きなのかい?」
「ええ昔から。そして今でも」

「ユズもミントが好きだった。いったい君は何者なんだ」

  【つくるが今晩の沙羅の姿について意味を言い当てる】
     つくるは見たままに言った。「君はユズに負けないくらいきれいだ。なにより、とてもチャーミングでもある。そしてユズのセーターを着ている」
 沙羅の表情がみるみるやわらいで、少し口元が微笑んでいるようだった。
「そう、誰にだってわかるわよね。これは謎解きとはいえない。ええ、柚木が辛い時期に泣きながら胸に抱えていたセーター。浜松まで持っていったセーター。これまで柚木も私も袖を通したことがなくって今晩初めて着ることになったセーター。そして、このペンダント」沙羅は右手をそっと胸でうす暗い店内でもありったけの明りを集めて輝く石に触れた。
「私が浜松に発つ柚木に贈ったイエロー・トパーズよ。抽斗にしまってあった、彼女の誕生石。石の持つ言葉は友情、希望、潔白。すべてが彼女に必要なものだった。私はそんな意味を込めて彼女にプレゼントした。でも最後は守り切れなかった。いえ、それら大切なものを守ったからこそ死に至ったかもしれない。すべては形見になってしまったけれど」沙羅の口調ははかなげで、悲しそうだった。
「色を持たない多崎つくるとしては、君のフレアなスカートの色にも仕掛けが潜んでいるように思えて仕方ない」
 つくるはテーブルの横からシルクっぽいストッキングの足を包んでいるスカートが見えるように身体を傾けてみた。見事なかたちのふくらはぎだった。
「そうよ。これはミッドナイトブルーというの」沙羅は説明を始めた。
「この色は柚木と私の大切な思い出なの。まだ二人とも小学生の子供で、私が女性の身体になる少し前のこと。私が誰かからチューインガムを一枚もらって、柚木と分けて噛んでみた。そうしたらすーっという強い独特の爽快感があって、私たちは嬉しくて顔を合わせて笑い合い、それ以来ミントの虜になったの。それがペパーミントガム。私たちは母にこのガムを買ってほしいとねだったのだけれど、母はいい顔をしなかった。そうよね、自分の娘二人が並んでガムをくちゃくちゃ噛んでいる姿はあまりみっとも良いものではないでしょうから。だから私たちは狙いを父に定めて頼みこんだ。そうしたら父は母には内緒だからと約束して、少しづつにするんだよ、という言葉を添えながら数個まとめて買ってきてくれた。学校から戻ると二人して私の小さなベッドに腰かけてミント味を楽しんだっていう豊かな思い出が残っている。そのガムの包装紙には南極の長い冬の三日月の下に毅然と立っているペンギンが描かれていた。スカートはガムのパッケージの色と同じ青。柚木とのつながりを象徴する色。そしが父が優しかったころの唯一の記憶なの」
 つくるは、テーブル越しに見る沙羅の姿を、頭の中で再び同じように組み立ててみた。16歳の白根柚木。イメージの中ではユズがややアイボリーがかった白いセーターと青いスカートを身につけていた。この瞬間、つくるははっ、とした。
 むかし近所の家の庭に柚の木があった。小ぶりで白いしっかりした花の中心には黄色い芯があって可憐な花だった。沙羅の白いセーターの胸は黄色い宝石で飾られている。それはユズの花そのものだった。それだけではない、大学の教養課程で古文の講義を受けていたときに、中世の武士の一族の栄枯盛衰について伝える故事の有名な一節の解説で、テキストに花の写真が載っていたのを思い出した。写真は白黒ではあったが、やはり花べんは純白で、中央は黄色いことに疑いはなかった。セーターとペンダントは二人の姉妹の名前に由来する花のかたちを表していることは確実だった。そう、沙羅も色を持っていた。つまり、一連の物語の中にシロは二人いたのだ! 白と黄色の組み合わせは沙羅自身をも表していた。沙羅が「本来の私の姿」と言った意味がここにあった。

  【失踪した沙羅に関して、つくるがアオに続いてアカに頼み事をしたあとで】
    「急ぎのところすまないが、ひとつだけ言っておきたい。教会に寄付を続けているのは事実だがいまのうさんくさい仕事に対する罪ほろぼしという訳じゃない。おれにとっておまえを入れた4人に必要とされた数年間はかけがえのない、そして戻ることはない時代だ。おれたちが損なってしまったシロを含めた全員にとって愉快で、この上なく大切な時間だった。だから純粋なんて言葉が似つかなくなった今のおれにすれば、あの場所は過去の記念碑とか墓のような意味合いがある。おれの名前が刻まれている(つくるが駅にしたように)、唯一の正しい場所って訳だ。ただ、企業を半分騙したようにして手に入れた金を教会に届けているなんて、気が引ける部分がないとは言えないがね。」
「卑下することはないさ。自分の歴史を守っていることを」
「そう思うか?」アカは確かめるように言った。
「ああ、そう思う」
「つまらないことを言った。友の頼みというかたちだが、久しぶりに行ってみるか」
「ありがとう」とつくるは言った。
アカは当然のように言い切った。「おれたちは友だちじゃないか」
「そうだな。友だちだった」アカにはアオにしたように連絡方法を伝え、名古屋で落ち合う旨を言って電話を切った。アカはポルシェを相当なスピードで操って教会へ疾走するはずだと思えた。
 近い将来につくるはアオとアカと3人で会うような気がした。アカはアオに顔を合わせても話すことがない、と言っていた。アオからもアカの仕事を嫌っている節がありありと見て取れた。初めから期待していた訳ではないが、つくるには当時の事情が明らかになることで過去の修復につながる幾分かのきざしを感じていた。ならば、空っぽであり色彩がないつくるが果たしてきたと皆が認めている(つくるに実感はない)役割が潤滑油となって古く錆びて固まった歯車がゆるやかに再起動すればいいのだが。もちろん、少年たちは大人になってしまった。抱えている問題や希望を障(さわ)りなく語るには時間が経ち過ぎたかもしれない。しかし、3人がそろって美しかったシロを悼み、遠い国へ渡ったクロを懐かしむだけでも、自分を含んだ歴史に向き合うには十分に価値があることだと思った。

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